子どもの親権争いは父親と母親のどちらが有利か

 「親権」とは、親が未成年の子を監護・教育し、財産を管理することを内容とする、親の権利義務の総称といわれています。

 離婚調停で、子どもの親権の争いとなった場合、父親と母親のどちらが有利でしょうか。

 結論から述べますと、子どもの親権はどちらかと言えば母親が有利です。しかし、父親が親権を獲得できた事例もあります。

母親が不利になる条件

 次のような場合には、母親の親権取得が不利になります。

  1. ・母親自身が子どもを監護する意欲、能力を有していない場合
  2. ・母親以外の人に長年子どもが養育されていた場合や父親が母親の役割を担っていた場合
  3. ・母親自身が子どもを置いて家を出て行ってしまった場合
  4. ・子どもを虐待している場合や過去に虐待していた場合
  5. ・子どもが母親に親和していない場合

親権者の判断基準

 離婚調停や裁判において親権者を定めるための主な判断要素は、次のとおりです。

 1番目や2番目の理由から、乳児や幼児の親権争いは、母親が有利です。

 しかし、これらの基準が絶対的なものになるわけではなく、監護能力や監護意欲の程度や、子どもとの関係によっては、父親が有利になることもあります。

 以下、それぞれの基準を詳細にみていきましょう。

母性優先の原則

 親権の判断基準には、いろいろな原則があります。

 母性優先の原則とは、子の福祉の観点から、子どもは父親よりも母親と暮らした方が望ましいという一般原則です。

 特に子どもが小さければ小さいほど、この原則が重視される傾向にあります。乳児(0歳)や幼児(1歳~5歳)であれば、なおさらです。

 この判断基準によって、親権争いでは、一般的には母親よりも父親の方が不利になります。

 しかし、親権争いに有利な母親であっても、常に親権が得られるとは限りません。

 例えば、母親が何らかの理由で(病気、愛情の欠落、性格の問題等)子どもに対しこれまで母性的な関わりをしてこなかったのであれば、母親より母性的な関わりをしてきた父親が有利になるということもあります。

 これ以外の原則は、父親だから有利、母親だから有利ということはありません。

現状維持の優先の原則

 現状維持の優先の原則とは、子の福祉の観点から、子どもにとって、今現に暮らしている親と今後も暮らし続けることが望ましいという一般原則です。

 特に別居期間が長く、子どもが片方の親と暮らしている期間が長いほど、この原則が重視される傾向にあります。

 母親が親権争いで負ける場合の多くが、「現状維持の優先の原則」と、次の「子どもの意思の尊重」によるものです。

子どもの意思の尊重

 子の福祉の観点から、子どもがどちらの親と暮らしたいかの意思を尊重するのが望ましいという一般原則です。

 特に子どもの年齢が高いほど、この原則が重視される傾向にあります。

 反面、子どもが小さい場合には、迎合してしまう場合も多いため、あまり重視されない傾向にあります。

兄弟姉妹不分離の原則

 子の福祉の観点から、兄弟姉妹を離れ離れにすることなく、同じ親の親権・監護権の下で養育するのが望ましいという一般原則です。

 特に子どもの年齢が高いほど、この原則が重視される傾向にあります。

監護の実績・監護能力・監護補助者の有無

 離婚前の子どもの監護を主にしていた親の方に親権が認められやすくなります。

 仮にどんなに子供に対する愛情が深く、監護の意欲が強い親でも、離婚前にはほとんど監護に関与しておらず、また離婚後も仕事が忙しくて帰宅時間が遅くなるなどの事情があれば、親権は認められない可能性が高いでしょう。

 最近では日本でも「イクメン」などと言われて父親が育児に積極的に参加するようになってきたものの、それでもまだまだ、母親の方が父親よりも育児にたくさんの時間を割いているという傾向が強いようです。母親が時短勤務や専業主婦を選択することが多いのも一因かもしれません。

 前述の「母性優先の原則」は、別居前や離婚前に子どもの監護を主に担ってきたのは母親であるということの結果という面もあります。

 祖父母など、監護補助者の有無も考慮される場合があります。ただ、祖父母の監護体制がどんなに充実していても、任せっきりというのは裁判所からあまり評価されない場合もあります。

虐待の有無

 父母のどちらかが子どもを虐待していたなどの事情がある場合には、前述の「母性優先」、「現状維持」、「従前の監護状況」等の基準とは関係なく、虐待していた親には監護権が認められないことになります。

 ただ、例えば母親が教育熱心なあまりに、子どもをきつく叱責していた等、「虐待」と評価できるか微妙な場合において、父親の仕事が忙しく、仮に子供を引き取っても子どもの世話があまりできないという場合には、母親側に監護権が認められる場合もあるでしょう。

その他

 どちらが子どもと別居親との面会交流に積極的か、という点が考慮される場合もあります。

子どもが親権者を選べる年齢はあるのか?

 子どもの意見だけで決まるわけではありませんが、子どもが15歳以上の場合は、子供の意思が尊重されます。場合によっては、15歳未満でも尊重されます。

弁護士としての経験上、親権は母親の方が有利

 もっともやはり経験上は、子どもの親権は父親よりも母親の方が有利だと思われる事案が多いです。

 子どもが生まれてから別居に至るまでの監護経過において、母性的な関わりをしてきたのはやはり主に母親という場合が多く、父親と比べると、子どもとの関わり合い方の質と量に大きな差があることが多いです。

 子どもが小さければ小さいほど母性優先の原則がものをいい、母親が有利だろうと思います。

 また、母親は、夫婦関係が破綻した際に一人で家を出るということはほとんどせず、子どもを連れて家を出ることが多いです。

 そのためか、虐待をしているとか著しく監護能力が乏しいなどの事情が無い限り、母親を親権者から外すという判断にはなかなか至らないように感じます。

 実際当事務所においてご相談いただいた案件でも、裁判で父親に親権が認められたのは、いずれも、母親が子どもを置いて家を出て、現在の監護者が父親であったもの、母親に病気等があって監護能力に問題があったもの、子どもの年齢が大きく、親権者に父親を希望したものなど、母親の監護能力が乏しいと判断されたものでした。

親権者の変更

 親権を持っていた親が病気になって子どもを監護できない状態になってしまったり、15才以上の子どもが親権者の変更を希望したりした場合は、親権者が変更されることがあります。

 親権者の変更をしたい場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。この調停のことを、「親権者変更調停」といいます。

 親権に関する弁護士相談、離婚調停のご相談なら、上大岡法律事務所までご連絡ください。

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