監護権に関する弁護士相談
監護権とは
親権の内容は、子どもの身上監護と財産管理に大きく分けられます。
このうち、子どもの身上監護、つまり、一緒に暮らして身の回りの世話をして、教育をする権利義務のことを「監護権」といい、監護権を有する者を「監護者」といいます。
親権とは別になぜ監護権が問題になるのか
離婚する前の夫婦は、未成年の子どもに対する親権を共同で行使します(民法818条3項)。
夫婦が別居していて離婚はまだしていない場合、依然として夫婦は共同親権者ですが、監護権は、子どもと一緒に暮らしている親のみが有することになります。
また、離婚する場合は、父母のどちらかを親権者と定めなければならず(民法819条1項、2項)、一般的に、親権者と監護者は同一の者がなりますが、子どもの養育環境に配慮して、親権者とならなかった方の親が監護者とされることもあります(民法766条参照)。
なお、監護者になることができる人は、子どもの両親に限定されていませんので、両親以外の第三者がなることも可能です。子どもの祖父母や叔父・叔母などの親族等が監護者となることもあります。
監護権を巡る紛争
夫婦のどちらかが子どもを連れて別居してしまった場合、もう一方は、子どもの引渡しや、監護者の指定を求めて、法的な手続をとることになります。
親権のページのところでも述べていますが、別居時の監護者を巡る争いの勝敗が、その後の親権を巡る争いの勝敗を決することが多いのでので、間違っても、「後々の離婚訴訟のときに親権を主張すれば勝てる」などと甘い見通しを持たないことが肝要です。
監護権を巡る手続きの種類
(1) 子どもの引渡しを求める調停・審判
(2) 監護者の指定を求める調停・審判
(3) (1)と(2)の保全処分
(1)子どもの引渡しを求める調停・審判と(2)監護者の指定を求める調停・審判の結果が出るまでには時間がかかるので、その間、子どもの生命・身体に危険が及ぶおそれがある場合などに、緊急に引渡しを求める手続です。
(4) 子どもの引渡しの強制執行
相手方が子どもを引き渡さない場合に、裁判所を通じて強制的に引渡しを求める方法です。
弁護士の間では、(1)~(3)を「3点セット」などと呼んでいます。
例えば、監護者として指定されても、同時に引渡しをしてもらわなければ、監護者指定は絵に描いた餅になってしまうため、3つの手続を一緒に申し立てるのです。
調停・審判の手続きが開始した後の流れ
(1) 調停か審判か
夫婦のどちらを監護者とするかについて合意ができるのであれば、調停が成立します。
しかし、別居するくらい仲が悪くなっている夫婦は、多くの場合、お互いに監護権を主張して譲らないので、調停では決着がつきません。
その場合、夫婦のどちらを監護者と指定するかを裁判官が決めることになり、これを「審判」といいます。
(2) 調査官による調査
裁判官が審判を下すにあたっては、どちらが監護者として適格かを判断する必要があるので、調査官という家庭裁判所の職員が、調査を行います。
調査官は、家庭の問題について調査する専門官で、具体的な活動は次のようなものです。
・夫婦それぞれの家庭を訪問し、視察する。
・実際に子どもと会い、子どもの健康状態・精神状態を見る。
・子どもがある程度の年齢に達している場合は、子どもの意思も確認する。
・場合によっては保育園、小学校、かかりつけ医なども訪問する。
・夫婦の別居にあたって、子どもが転園・転校していた場合は、場合によっては、転園・転校前の保育園・小学校を訪問する。
(3) 監護者を決めるときのポイント
概ね親権者を決めるときの要素と同じです。
ア 乳幼児の場合は母性優先
乳幼児の場合は、母性的役割をする者を優先します。この場合の「母性」とは、「生物学的な母」という意味ではなく、「子どもに対して母性的な関わりをすることができる者」という意味です。
一般的に、女親の方が、男親よりも、子どもの健康状態や精神状態についてきめ細やかな配慮をすることができるといわれており、こういったきめ細やかな対応をすることができることを「母性」といいます。
男親であっても、子どもに対して母性的な関わりをすることができるのであれば、監護者になれることがあります。
イ 監護の継続性の維持
現実に子どもを監護養育している者が優先されます。
別居状態が長く続き、その間、子どもの生活が安定しているのであれば、裁判所としては、その安定した生活状態を変動させてまで、監護者を変更しようとは考えません。
環境がコロコロ変わるのは子どもの身体にとって負担になりますし、また、特に転校を余儀なくされる場合などは、精神的な負担も大きくなるからです。
弁護士は一般的に、「子の引渡し・監護者指定の調停・審判はなるべく早く申し立てなければなりません。」とアドバイスするのですが、それは、「相手方の元での子どもの生活が安定してしまうと、監護者を巡る争いで勝ち目がなくなるから」という理由があるからです。
また「後で子どもを引き取りに行けばいいや」という軽い気持ちで自分1人で家を出てしまう方もいらっしゃいますが、これも、同様の理由から、監護者として認めてもらえなくなるおそれが高くなるので注意してください。
ウ 子どもの意見の尊重
15歳以上の子どもについては、「どちらの親と一緒に暮らしたいか」という子どもの意見が優先されます。
15歳に満たなくても、概ね中学生以上になると、裁判所は子どもの意見を重視します。
エ 兄弟姉妹関係の尊重
兄弟姉妹がいる場合は、なるべく兄弟姉妹を同じ親の元で育てた方がいい、という考え方があります。
それまで一緒に遊んでいた兄弟姉妹と突然引き離されてしまうと、子どもが精神的に不安定になってしまうからです。
オ 監護能力の有無・程度
監護の意欲や能力・経済力があるか、ということから判断されます。
現に子どもを養育している親の場合は、多少の問題があっても、裁判所は、「監護能力あり」と判断する傾向にあります。
親といっても完璧な人間ではないですし、裁判所としては、それよりも、監護者を変更して子どもの環境が変わり、何か問題が生じることのリスクの方を大きく捉えてしまうのです。
相手方に細々とした欠点があることを主張したところで、裁判所からはあまり相手にされない、ということを肝に銘じ、別居前から積極的に子どもの監護を行っておくことが大事です。
また、よく「妻の方が収入が少ない」ということを理由に「妻の監護能力が劣る」という主張をする夫がいますが、収入の差は、夫が養育費や婚姻費用を支払うことによって補うことができますから、これもあまり裁判所は重視しません。
カ 寛容性の原則
これは、監護者と指定された場合、指定されなかった相手方に対して、どの程度の面会を認めるか(相手方に対してどれくらい寛容か)、という意味です。
憎み合っている夫婦は、互いの悪口を子どもに言ったり、子どもを相手に会わせようとしなかったりすることがよくあります。
しかし、どんなに憎い相手であっても、子どもにとっては親です。子どもからしたら、自分の親の悪口を聞かされるのは、とても辛いものです。
また、面会交流は、子どもの権利であって、親の権利ではありません。子どもは、離れている親と会えなくなることにより、「見捨てられた」と感じてしまい、子どもの精神に重大な影響を与えてしまいます。
そこで、裁判所は、父母のどちらを監護者として指定するかを判断する際に、離れている親との面会をどれだけ積極的に認めているか、という点も考慮します。
「監護権を勝ち取ったら相手になんか会わせてやらないぞ」などと考えている親には、裁判所は監護権を認めないわけです。
キ 法的手続きの遵守
例えば、妻の元にいる子どもを、夫が無理矢理連れて来てしまった場合は、その後、たとえ夫の元で子どもが問題なく育っていたとしても、監護者の指定において、夫は不利に扱われます。
連れてくる際に、妻の同意はあったか、暴力的な行為はあったか、連れて来なければならないやむを得ない事情があったのか、といった要素から判断されます。
相手方の手元にいる子どもを連れ戻したい、と考えた場合は、無理矢理連れてくるのではなく、前記の調停・審判の申立てを直ちに行うことが大事です。
(4)不服申立て
家庭裁判所の審判に不服がある場合は、即時抗告という不服申立ての方法をとり、高等裁判所に判断してもらうことになります。
協議離婚における監護者の合意に関する注意点
協議離婚時
冒頭でも説明したように、親権者と監護者は同一の者がなるのが一般的ですが、子どもの養育環境に配慮して、親権者とならなかった方の親が監護者となることもあります(民法766条参照)。
例えば、離婚に向けての話合いを進めている夫婦がそれぞれ親権を要求して譲らない場合などに、親権者と監護者に分けて、それぞれが部分的に子どもに対する責任を負うようにして話合いをまとめるとことがあります。
父親を親権者、母親を監護者とした場合、子どもは父親の戸籍に残ることになりますが、実際に子どもを引き取って面倒をみるのは母親ということになります。
子どもがまだ幼く母親と生活した方がいいと判断される場合や、親権をめぐる父母の対立が激しく折り合いがつかない場合にこのような方法をとることがあります。
離婚届には親権者を記載する欄はありますが、監護者を記載する欄はありません。
そのため、親権者とは別個に監護者を決める場合には、取り決めた内容を書面に残しておかないと、離婚後にトラブルに発展するおそれがあります。
協議離婚の場合には「離婚合意書」か「公正証書」を必ず作成しましょう。
離婚成立後
離婚届には、未成年の子どもの親権者が誰かを記入しなければならないので、親権者は離婚と同時に決めなければならないのですが、監護者は離婚が成立した後からでも定めることができます。
父母が話合いで決めることができないときは、家庭裁判所に監護者の指定を行うよう調停・審判を申し立てることができます。
この場合、子どもの利益を考えて、誰が子どもの監護者としてふさわしいかを判断することになります。
子どもの監護者の指定の制度を活用することで無駄な争いを避けることができる場合もあります。
監護者は、父母の協議によって決定できますし、戸籍上の届出も必要ありません。この制度をうまく利用して、相手を親権者とする一方で自分を監護者とすることによって、子どもと一緒に生活していくことができます。
監護権の変更
離婚後の親権者の変更についての相談をされる方がいらっしゃいますが、親権までは得られなくても、監護者の制度を利用することによって円満な解決を図ることができる場合もあります。
監護権に関する弁護士相談
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